グォン・ドヨン
アーティスト・ステートメント
北漢山
1.私は幼年期を、開発が進んでいたソウルの郊外のニュータウンで過ごした。ニュータウンといっても、山の麓にぽつりぽつりと建てられた工事中の奇妙なアパートが数軒あるだけの町だった。私はそこで鳥の声と風の音、工事現場の騒音を糧に育った。夕暮れ時、地平線の向こうに果てしなく広がるアスファルトの上に赤い光がにじむと、庭の片隅につながった水道で体を洗った。
その犬と初めて会ったのは、十一歳になったばかりの初夏だった。町には栗の木の森がある小さな丘があった。そこはいつも、あらゆるゴミと工事現場から捨てられた発泡スチロールで散らかっていた。夕闇が迫ると、町の人々がゴミと食べ残しをそこに捨てた。そして夜が更けると、ドカドカと音を立てて現れたゴミ収集車がゴミを片付け、すぐに去っていった。私はそこを、特に目的もなくぶらつくのが好きだった。ある日、痩せた犬が一匹、山を横切って下りてきて、ゴミ捨て場のあたりをうろついていた。様々な血が混じり、正確にどの犬種とは言えない、小さな白い犬だった。犬は四つ足でまっすぐに立ち、私をじっと見つめた。少し警戒しているようだったが、力はなかった。白い犬は私の周りをくるりと回り、体の匂いを嗅いだ。そして何かを決心したように、私の手のひらに鼻をつけクンクンと匂いを嗅いだ後、舌を出して舐めた。私はそいつに「コンナムル」という名前をつけた。コンナムルはゴミ捨て場の近くの栗の木の下で暮らしていた。そこには深く掘られた土の穴があり、穴の入り口は木の葉で覆われていた。乾いた土の穴の中には、幼い子犬が二匹隠れていた。私は毎日そこに立ち寄り、犬たちの様子をうかがった。時々、彼らがいなくて戸惑うこともあったが、土の穴の中に食べ物を残しておいた。
夏が終わりかけていた九月、雨が降った。台風が来ているとのことだった。満月が黒い雲の中にためらうように姿を隠したり現したりを繰り返しながら、一晩中雨が降った。私はその夜、土の穴にいたコンナムルと子犬たちが、捨てられた白い発泡スチロールに乗ってゴミ捨て場から脱出する夢を見た。早朝、日が昇り、空は晴れた。私はゴミ捨て場に走っていった。頭上に幾重にも重なる青い栗の葉は、相変わらず美しさと静寂に包まれたまま、音もなく揺れていた。そこには何の気配もなかった。コンナムルが住んでいた土の穴の中に手を入れてみた。瞬間、ぐにゃりとして、冷たく生暖かく、くすぐったくて柔らかい何かが私を撫でていった。生まれて初めて感じる感覚だった。私は自分の手のひらをじっと見下ろした。手には薄い水の跡が残っていた。同時に、私の内面にも奇妙な跡が残ったが、私はそれが何なのか分からなかった。
2.
2015年に結婚し、一山(イルサン)に新居を構えた。私は新しい作品のため、家の近くの北漢山(プッカンサン)で長期間にわたり森を観察した。生態学者になったかのように、週に4〜5日山に入り、草木の動向を調べた。自然界の変化は、かなり単調でゆっくりと起こった。ある日、偶然にも北漢山の近くを徘徊していた野犬の群れに出会った。私は彼らを静かに、そして詳しく観察した。次第に時間が経つにつれ、犬たちは私を木を見るように、自分たちを傷つけない山の中のもう一人の友人のように受け入れてくれた。飛鳳(ピボン)のシロアシ、族頭里峰(チョクトゥリボン)のクロクチ、隠れ壁(スムンビョク)のトンガリ耳。この群れは今も北漢山を登り、仲間同士で唸り合い、追いかけ追われ、岩の上の崖っぷちに立っている。
北漢山の野犬が本格的に社会問題として浮上したのは2010年以降のことだ。ソウル市は2012年に行われた恩平区(ウンピョング)の大規模な再開発事業を最大の原因として挙げている。再開発によって捨てられた犬たちが北漢山に流入し、繁殖して個体数が増加したと把握している。2012年以前は北漢山国立公園が独自に野犬を捕獲していたが、市民からの苦情が増加したため、2012年からはソウル市が捕獲している。捕獲された野犬の数は、2010年には9匹だったものが、2012年からは100匹以上に急増し、2019年までに捕獲された野犬の数は千匹余りに達する。現在、北漢山に残っている野犬の数は、ソウル市の推定で50匹余りだ。私は、この残された北漢山の野犬たちを写真で記録した。野犬は生態学的に、ヌートリアやウシガエル、ブラックバスのように外来種として分類される。外来種が侵入して在来種を捕食し、在来種の個体数を減少させるためだ。
観察をすればするほど、この山の風景はなぜか見慣れたもののように感じられた。しばしば風景は、そこに生きる生命の光景が繰り広げられる舞台というよりは、一枚のカーテンのように見える。その向こうで、生き残るための闘争、達成、そしてその出来事が繰り広げられているカーテン。
3.
北漢山での仕事を終え、山から下りてきてから、頻繁に悪夢にうなされるようになった。毎回似たような夢だった。栗の木から始まり、犬たちが崖から滑り落ちるところで終わる夢。夢から覚めた明け方には、山への恋しさがこみ上げてきた。そこへ行きたかった。北漢山に犬が住んでいるという単純な事実は、彼らの存在を可能にする広範な条件が整っていることを意味する。彼らが縄張り行動を発揮できるほどの面積、食べていけるだけの生態系、繁殖によって存在が持続できるだけの個体群など。犬一匹は、これら全ての生態学的要素を内包している一つの詩的な存在なのだ。北漢山は、「チンチンイとダンビ」という作品で自身を表現しているのだ。北漢山の野犬を記録した写真たちは、紙とウェブに転写され、永遠のイメージの煉獄を彷徨うだろう。存在すら知らなかったこの友人たちの姿を、誰もが簡単に見ることができるようになるだろう。木々の間を揺らぐ、私の愛する友人たちを記録しておけるという事実に、私は敬虔な気持ちになる。
クンクン(Kunkun)
春の早朝、深く立ち込めた霧の中、一匹の茶色い子犬が森を横切り、山腹の寺の近くへと静かに歩いてくる。その子は疑いの眼差しでしばらく周りを見渡した後、食べ物が埋められた場所へと向かった。背中には大きな紅斑があった。
僧侶たちは残った食べ物を寺の隣の菜園に埋めていた。北漢山(プカンサン)の犬たちにとって、ここは重要な場所である。チンチンイが菜園に着いた時には、他の二匹が食事をしていた。彼らがその場を去ってから、チンチンイはゆっくりと入って行った。チンチンイは前足で素早く食べ物を掘り起こした。餌を急いで飲み込み、慌ただしくゴミ捨て場を後にした。
チンチンイはいつも一人で行動した。もしかすると、定住すべき理由を見つけられずにいるようだった。餌を探し回る時間以外は、毛づくろいをしたり、日向ぼっこをしたりして過ごした。正午になり暑くなると、自分が掘っておいた穴に入って涼んだ。
いつからか、チンチンイはシロアシの群れについて回るようになった。かくも深い山は、一人で生きていける環境ではなかった。笛吹き男について行った子供のような表情で、群れを追いかけた。しかし、シロアシの群れにとって「おまけの一匹」のような姿だった。
秋になると、チンチンイの毛は柔らかく艶やかになり、野性の美しさに満ちあふれる。家で飼われている犬には持ちがたい、自然な色合いと光沢だ。今のチンチンイを見れば、半年前まで深刻な皮膚病に苦しみ、耳までただれたまま茫然自失の目つきで眺めていた姿など想像もできない。深夜の月光がチンチンイの艶やかな皮膚を照らすと、美しい曲線が際立った。チンチンイは北漢山で最も素敵な犬になった。
ある日、悲劇が訪れた。主に登山道の入り口の方で捕獲をしていた猟師が、峰の頂上まで登ってきたのだ。チンチンイは彼を見るやいなや、頬が凍りつき、顎が震えて動けなかった。尻に麻酔銃を撃たれ、注射器をぶら下げたまま森に向かって必死に逃げた。家まであと五、六歩というところで体の温もりがすっと引き、藪の中で気絶した。そしてしばらくの間、チンチンイの姿は見えなかった。
シロアシ(Shiroashi)
灰色の目、白い胸の毛と白い左脚、狼のように長くしなやかな鼻面。シロアシはこの峰のリーダーだった。成犬になって間もなかったが、力が強く勇敢で、他の群れと戦う時は真っ先に飛び出していった。シロアシは六、七匹の犬たちと群れをなして歩き、常にそれとなく尻尾を垂直に立て、自分がどんな地位にいるのかを表した。ずっと尻尾を尻の上に高く掲げて歩くため、藪の中でもシロアシの直角に膨らんだ尻尾が見えた。
シロアシは寺の近くの菜園を拠点としていたので、ここに近づく見知らぬ犬はシロアシの審査を受けなければならなかった。他の犬が菜園に現れると、シロアシは遠くから彼らをじっと見つめた。新しく現れた犬たちは、ほとんどがシロアシの態度を見て、自分がこの区域で歓迎されているかどうかを察した。
シロアシは食事の時を除いては、家に寄り付くことがなかった。真夜中まで森を駆け回り、リスや鳥を追いかけた。文字通り、倒れるまで遊ぶやつだった。夏が過ぎ、シロアシはだんだんと問題児になっていった。山を飛び出し、登山道の入り口まで歩き回ることが頻繁になった。
発見場所:北漢山〇〇峰の近隣。 特記事項:両耳はピンと立っている。鼻は黒い。目やに。警戒心が強い。
シロアシは2018年10月、峰の頂上まで追ってきた猟師に麻酔銃を撃たれ、クロクチと共に捕獲された。ソウル市の遺棄動物保護管理システムにシロアシの写真が載った。鉄格子の中のシロアシは、前脚に力を入れ、歯をむき出しにして唇をめくり上げた。耳を立て、頭を高く持ち上げ、リーダーの威厳と怒りを示そうとした。しかし、無残にも口から流れ出るのはクンクンと鳴く声だっただろう。20日後、シロアシはクロクチと共に安楽死させられた。
クロクチ(Kurokuchi)
月光の中にクロクチが立っている。耳をピンと立て、親しげに尻尾を振りながら私を見た。私が一歩近づくと、くるりと向きを変え、森へと駆け込んでいった。クロクチは大きな鳥のように森の影の中へと飛んでいった。クロクチを飲み込んだ影の向こうから、長く、ゆっくりとした、高い鳴き声が聞こえてきた。
クロクチは快活で若いメスだった。序列社会でアルファではないベータ個体が生き残る術を、全身で見せてくれる教科書のようだった。仲間好きで、力関係を把握する能力に優れている上、求愛演技の達人だった。「あなたのことが好きです」とでも言うような無垢な瞳と目が合う日には、リュックサックの中の弁当を取り出してやらずにはいられなかった。
秋になり、二日連続で雨が降った後、空が晴れた。山頂が暖かくなると、クロクチは子犬を連れてなだらかな小道に姿を現した。生後3ヶ月を過ぎた子犬は、体格がすでに母親の半分ほどにもなっていた。子犬の背中には、ただれた皮膚病が見えた。平穏な暮らしを願い、「干ばつに降る恵みの雨」という意味のダンビという名前を付けてやった。ダンビが木の葉を踏んで通り過ぎるたび、カサリと軽い音がした。ダンビは菜園のあちこちを行き来し、飛び回った。この子にとって、ここが幼年世界のすべてなのだろう。
早朝、クロクチとダンビが登山道に向かって歩いていった。見慣れない空き缶を覗き込んでいて遅れたダンビが、ちょうど母親の後を追おうとした時だった。突然、前方で泣き叫ぶ声がした。ダンビは本能的に頭を巡らすと、反対方向へと駆け出した。岩の洞窟に戻ってきたダンビは、体をぶるぶると震わせた。クロクチは帰ってこなかった。
クロクチの最期を想像してみる。誰かが峰まで登ってきたこと、麻酔銃を撃たれ視界が真っ暗になりながら藪の中へ逃げ込んだこと、シロアシと共に動物保護施設で目を覚ましたこと、数日後、他の犬たちが注射を打たれ、初めは一匹、二匹と、やがて一斉に咳をし、ひどい匂いの鼻水を流し、顎と脚を震わせながら倒れていったこと、体の温もりがすっと引いたこと、そして、私のかわいい子。
獅子毛(ししげ, Shishige)
どこかで唸るような息遣いが聞こえた。最初はクロクチが呼ぶ声だと思った。暗闇をうかがい、そうではないと気づいた。見えはしないが、森に身を隠して見守っている誰かがいることをはっきりと感じられた。地面が振動するかのように、低くかすかな音が響いた。カラマツの森の裏手の深い影の中だった。思ったより距離は近かった。五、六歩離れたところに、大雪で倒れた木があった。その下に、一匹の犬が私を見つめて立っていた。
豊かな茶色い毛、大きな背丈としなやかな体つき、尻の下まで垂れた見事な尻尾。全身で野性を露わにしている犬だった。あえて牙をむき出さなくても、存在そのものから威厳が感じられた。鋭く立った耳がレーダーのように後方へぐっと向き、二度びくりと動いた。その子は身じろぎもせず、私を注視していた。濃く黒い眼窩で、茶色い瞳が炎のように燃えていた。そいつは首筋の毛をライオンのたてがみのように逆立て、体を前に乗り出して唸った。
獅子毛は大きなカシワの木の下に穴を掘って暮らしていた。入り口を隠して見えにくくし、その中を葉で満たして暖かく包んでいた。木の上の方にはカラスの巣があった。木のてっぺんに住むカラスと根元に住む獅子毛は、決して互いを侵害しなかった。このカシワの木の世界には、共有されることのない二つの世界と経験が存在するかのようだった。
慈雨(じう, Jiu)
チンチンイが帰ってきた。クロクチの子、ダンビと一緒だった。
ダンビはクロクチと見間違えるほど体格が大きくなり、皮膚病もすっかり治っていた。その子は奇跡のように、あらゆる段階に潜んでいた危険を乗り越えた。元気旺盛なダンビの体からは、生まれ持った強さが感じられた。
チンチンイとダンビは、寺の上方にある石仏に新しい住処を構えた。ここは僧侶や信者たちが頻繁に出入りする場所だったが、寺の補修工事でアクセス路が閉鎖された。そのおかげで、石仏の裏はチンチンイとダンビにとって思いがけない新しい楽園となった。そうしているうちに、ダンビの腹が目に見えて大きくなってきた。チンチンイは寺の菜園を行き来し、餌を運び続けた。一匹狼だったチンチンイは、責任感のある伴侶となった。ダンビは2019年7月、二匹の子犬を産んだ。それぞれ白と茶色で、体つきはずんぐりとしており、性格は明るかった。
ダンビは機会があるたびに子犬たちを野原へ連れて行き、餌の探し方を教えた。一度は子犬が鉄条網をくぐり抜けようとして、有刺鉄線に引っかかってしまったことがある。子犬は悲鳴を上げ続けたが、幸いにも母親のおかげで抜け出すことができた。
洞窟に戻ってきた子犬は、乳を吸いたがった。しかし、ダンビはなんの反応も見せず、ただ眠っていた。子犬は仕方なさそうに目を開けて森を見ていたが、ゆっくりと目を閉じた。黄色い枯れ葉が舞い散っていた。栗の木の葉だった。葉がすべて落ちた枯れ枝は、空を美しく飾っていた。穴の周りは枯れ葉でいっぱいになった。ダンビと子犬が落ち葉を踏んで通り過ぎるたび、カサリと軽い音がした。